撮影を終えて

1996年、まだ名残雪の残る頃、私の写真集「神棲む谷」に好感を持って下さった田楽座から撮影依頼の電話を頂き、今回の写真集「田楽座」は始まりました。その春から1年に渡って座員の皆さんの様々な素顔をカメラに収めることは、私にとっても貴重な体験を積み重ねることとなりました。

1995年に刊行した「神棲む谷」では、8年間にも及ぶ月日と情熱を「霜月祭り」に注ぎ、日本人の原点を見い出すとともに、「祭る」ことへの日本人の時代を越えた想いを熱く感じたものでした。その後生活を移したザルツブルグにおいてのオペラ舞台撮影の中にもまた今回の撮影との共通点を覚えました。私にとって写真集「田楽座」はこの二つの体験を柱にした今までの集大成です。

今日の現代社会は大きな閉塞感に覆われているような気がしてなりません。悲しいことにこれからの日本を担っていこうと言う若者がその犠牲になっていることは確かです。しかし、この撮影期間を通して渡しの触れた若者達は、「日本もまだ捨てたものではない」とばかりに希望の光りを放っていました。本当に追い求めるべきものに素直に身を委ね、強い意志のもとに努力し、一番輝いている自分を観客の方々に披露出来る瞬間をなによりも大切にしている若者のまなざしはまさに今の時代の宝物であります。

過去から受け継がれる日本人の精神を時代の最先端に置く彼らの姿は、若者の全く新しい夢の在り方ではないでしょうか。

本書の全ページを通して、読者の皆様に今日の日本人の本当に在るべき姿の美しさに触れていただければと、心より願っています。

1997年8月31日 中川賢俊 (Wienにて)



BACK